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サーブ理論③|サーブが跳ねるのに伸びないのはなぜか?バウンド後に伸びるボールを打つには?

スピンサーブの練習を重ねて、回転はかかるようになった。バウンドもそれなりに跳ねる。なのに——サーブに勢いがない。バウンド後にボールが前に伸びていかない。

そんな悩みはないでしょうか。

前回の記事(スピンサーブの打ち方はトスで決まる?)では、回転の作り方を物理から整理しました。今回はその続編として、「伸び」の正体と作り方を掘り下げます。

先に結論を言ってしまうと、こうなります。

  • 伸びないのは回転が多すぎるからではなく、球速が足りないから
  • そして回転を減らしても、球速はほとんど戻ってこない(ここが直感に反するところです)
  • 球速を上げる手段の中には、回転をまったく犠牲にしないものがある——それが「有効質量」です

※この記事の数値の多くは、記事末尾に示した前提での試算です。大小関係の目安としてご覧ください。

目次

前回との違いと、この記事の読み方

前回と今回で、扱う「量」が違います。前回は回転(rpm)、今回は球速と着地角です。

前回の記事 今回の記事
解決する悩み スピンがかからない 回転はかかるが勢いがない・伸びない
主役の物理量 回転数(rpm) 球速(km/h)と着地角
核となる発見 トスの落下が回転を作る 重くしても回転は変わらず、球速だけ上がる
主なレバー トスの高さ・前後左右 打点精度・体の前進・重量調整・ストリングの飛び
今日やること トスを変える 着弾の深さを測って「振れる上限」を探す

途中、前回の内容(ブラシ角と球速の関係、横向きキープなど)が再登場する箇所がありますが、これは復習を兼ねています。同じサーブという動作を、今回は「回転側」ではなく「球速側」という別の角度から眺め直してみましょう。前回を読んでいなくても、この記事だけで完結するように書いています。

第1章:「伸びない」の正体は着地角

跳ねるのに前に行かない、が起きる仕組み

バウンド後にボールが前へ伸びるかどうかは、着地するときの角度でほぼ決まります。

  • 浅い角度で滑り込むように着地 → 前へ抜けていく(伸びる)
  • 立った角度で突き刺さるように着地 → 上には跳ねるが、前には行かない

では着地角は何で決まるのか。回転と球速のバランスです。同じ回転量でも、球速が高ければ弾道は前に伸びて浅い角度で入ります。球速が低ければ、回転のマグヌス力に負けて急降下し、立った角度で落ちます。

つまり「跳ねるのに伸びない」というサーブは、回転に対して球速が足りていない状態です。回転が育ったのに球速が置き去りになっている——練習熱心な方ほど陥りやすいバランスではないでしょうか。

回転を減らしても、球速は戻ってきません

「じゃあ擦るのを控えめにして、その分を球速に回そう」と考えたくなりますが、ここに落とし穴があります。試算してみましょう。

ブラシ角(擦り上げの角度)を11度から8度に寝かせた場合:

項目 変化
回転 約28%減
球速 約1%増(+1km/h程度)

回転を3割近く捨てても、球速は1km/hしか返ってきません。三角関数の性質上、この角度域では擦り上げの「球速コスト」がもともとほぼゼロだからです。

回転と球速は、交換できない——これがこの記事の出発点です。球速は、球速専用のレバーで上げるしかありません。

第2章:球速を決めるシンプルな式

サーブのようにほぼ静止したボールを打つ場合、飛び出しの球速はこう書けます(Tennis Warehouse Universityの整理より)。

球速 = (1 + eA) × スイング速度

eA(エーコール:反発係数のようなもの)は、ラケットの「弾き返す力」を表す数字です。この式から、球速のレバーは実質2つしかないことがわかります。

レバー 内容
スイング速度 どれだけ速く振れるか
eA ラケットがどれだけ押し返されずにボールを弾けるか

スイング速度が大事なのは誰でも知っています。問題はeAの方です。実はここに、中級者が見落としがちな伸びしろが2つ隠れています。

伸びしろ①:打点(スイートスポット精度)

TWUの測定では、eAはラケット面の中央付近で約0.4、フレーム近くでは0.1〜0.2まで落ちるとされています。

スイング速度25m/sで試算すると、中央(eA約0.4)と少し外した打点(eA約0.3)の差だけで球速は9km/h前後、フレーム際まで外せば20km/h近く変わる計算になります。スイング速度を数m/s上げるのに匹敵する差で、しかも筋力は一切要りません。

関連記事
打点精度を「技術」ではなく「ラケット選び」の側から支えるという考え方もあります。詳しくはこちらで解説しています。
ミートのしやすさでラケットを選ぶという提案

伸びしろ②:有効質量

もうひとつがこの記事の主役、有効質量です。次章で詳しく見ていきます。

第3章:有効質量——回転を削らずに球速だけ上げる、珍しいレバー

「有効質量」とは何か

ボールがラケットに当たった瞬間、ボールが「感じる」ラケットの重さは、カタログの重量ではありません。TWUによれば、体感される質量(有効質量)はおおよそ:

打点の位置 有効質量の目安
ラケット先端 実重量の約1/3
面の中央 実重量の約1/2

300gのラケットでも、先端付近では100g程度の「軽いラケット」としてボールに応対しているわけです。そしてサーブは先端寄りで打つショット。つまりサーブは、有効質量がもっとも痩せる条件で打っています。

有効質量が小さいと、インパクトでラケットが押し返されてエネルギーが逃げ、eAが下がり、球速が落ちます。軽量ラケットでサーブを打つと「回転はかかるのに、ボールが前に行かない」と感じるのは、この仕組みです。

決定的な実験:重くしても回転は変わらなかった

ここで面白い実験があります。物理学者のロッド・クロスとTWUのクロフォード・リンジーは、ラケットの3時・9時の位置に13.4gのボルトを2本挿し込み(計26.8g追加)、同じフレームの「重い版」と「軽い版」で165球のインパクトを撮影・比較しました。

結果はこうでした。

項目 質量を追加すると
eA(球速側) 上がった
スピン(回転側) 強くは変わらなかった

つまり——

有効質量を上げると、球速は上がり、回転はほぼそのまま。

前回の記事で見たとおり、回転のレバー(ブラシ角・トス)はどれも何かとのトレードオフでした。ブラシ角は球速を食い、高いトスはタイミングを難しくする。その中で有効質量は、片側だけ得をする珍しいレバーなのです。

ただし、条件がひとつだけあります

「同じスイング速度で振れる範囲なら」という条件です。

重くすればeAは上がりますが、振りにくくなればスイング速度が落ちます。TWUの研究では、同じ労力で振った場合、スイングウェイトが低い領域では重くするほど球速が上がる「タダ飯」の区間があるものの、一般的なスイングウェイト域では「入れた労力の分しか出ない」状態に頭打ちする、とされています。そして振り切れない重さまで行けば、実戦では球速もキックも落ちていきます。

つまり探すべきは「深さが伸びなくなる限界点」です。やり方は最終章で紹介します。

関連記事
なお、有効質量はフレームの質量分布と打点で決まるため、握る位置を変えてもほとんど変わりません。この性質を利用して「重いラケットを短く持ち、球速のポテンシャルを保ったまま操作性を取りにいく」というアプローチを、こちらの記事で掘り下げています。
ラケットを短く持つと何が変わるのか——「短く持ち」理論

第4章:体の前進——無料で球速を買う

用具の前に、もうひとつ無料のレバーがあります。体を前に運ぶことです。

インパクトの瞬間に体が前へ1〜1.5m/sで動いていれば、その速度はラケットの前方向の速度にそのまま上乗せされます。電車の中で前に投げたボールに電車の速度が乗るのと同じ理屈で、試算では球速5km/h前後に相当します。

しかもこの上乗せは前方向にだけ効くので、擦り上げ(回転)はほとんど削られません。有効質量と同じ「片側だけ得」の構造です。

スピンサーブでやりがちな誤解

スピンサーブでは「横向きをキープ」とよく言われます。これは正しいのですが、「横向き=その場に留まる」と解釈すると、前進を丸ごと捨ててしまいます。

要素 正解
肩の向き 横向きを長く保つ(開かない)
体の移動 横向きのまま、前+上へコートの中に飛び込む
着地 ベースラインの内側20〜40cmあたり、左足で

チェック方法は簡単です。ベースラインの内側20cmと40cmに目印を置き、いつものサーブを10本打って、左足がどこに降りているかを見てください。ラインのすぐ内側(0〜10cm)にしか入っていなければ、前進のぶんの球速を捨てている可能性があります。

調整はトスで行います。トスをボール半個分だけ前に置けば、体は自然に前へ運ばれます。前に出しすぎて回転が消えたら半個戻す——回転が保てる限界まで前、が目安です。

第5章:ストリングでも球速を拾える

最後に用具側のもうひとつの選択肢です。

TWUの解説によれば、ボールはルール上、変形に使ったエネルギーの45〜47%を失うように作られています。一方、ストリングの損失は5%程度。つまりエネルギーをボールの変形ではなくストリングのたわみに流すほど、損失が減って球速が上がります。

具体的には:

  • テンションを下げる
  • 柔らかめのストリングを選ぶ
  • ゲージを含めて「よく飛ぶ」方向のセッティングにする

そして重要なことに、この方向の変更は回転をほぼ犠牲にしません。「飛ぶセッティングはコントロールが不安」と感じるかもしれませんが、回転過多で伸びないサーブにとっては、飛びの回復はむしろ着地角を適正化する方向に働きます。

第6章:実践——「振れる上限」の見つけ方

ここまでのレバーを、実際に試す手順に落とします。

鉛テープで有効質量を上げる実験

  1. ラケットの3時・9時の位置に鉛テープを貼る(クロスとリンジーの実験と同じ位置です)
  2. 2〜4g刻みで増やしていく
  3. 判定は感触ではなく、セカンドサーブの着弾の深さで行う

判定プロトコル

  1. サービスラインの手前に1m刻みで目印を置く
  2. 同じ意図のセカンドサーブを、条件ごとに20球打つ
  3. 記録するのは「着弾の平均的な深さ」「入った本数」「キックの高さの体感」の3つ
結果 読み方
深さが伸びて、キックも保たれている その重さは正解。もう1段階試す価値あり
深さが伸びなくなった 振れる上限を越えたサイン。1段階戻す
キックの高さが落ちてきた スイング速度が落ちています。これも戻すサイン

1球ごとの感触は当てになりません。20球の平均で見る——これが用具実験のコツです。なお、練習で見つけた最適点は、試合の緊張下ではやや重すぎることが多いようです。迷ったら軽い側を選ぶのが実戦的だと思われます。

優先順位のまとめ

※スマホでは表を横にスクロールできます

優先 アクション コスト 期待効果(試算)
1 打点をスイートスポットに(打点の再現性) 無料 最大9km/h級
2 前への飛び込みを確保(着地20〜40cm内側) 無料 5km/h前後
3 3時9時に鉛(2〜4g刻み・20球テスト) 数百円 3〜4km/h(上限まで)
4 ストリングを飛ぶ方向に(低テンション・柔らかめ) 張り替え代 2〜3km/h
5 スイングスピード強化 長期 最大だが時間がかかる

上位2つが無料——前回の記事とまったく同じ構図です。用具を変える前に、打点と体の使い方でまだ拾えるというのが、今回も結論になります。

まとめ

  • 「跳ねるのに伸びない」のは、回転過多ではなく球速不足。着地角が立っているのが原因
  • 回転を減らしても球速はほぼ戻らない。球速は球速専用のレバーで上げる
  • 有効質量は、回転を削らずに球速だけを上げられる珍しいレバー(実験で確認されています)
  • ただし「同じ速度で振れる範囲」が条件。上限は着弾の深さ×20球で探す
  • 無料のレバー(打点精度・前への飛び込み)が、実は最大級に効く

回転の記事とあわせて読むと、スピンサーブは「回転はトスで、伸びは質量と前進で」という分業になっていることが見えてきます。どちらも、高価な用具より先に、今日のコートで試せることばかりです。

出典・参考文献

試算の前提について

本文中のkm/h等の数値は、球速の式(球速 =(1 + eA)× スイング速度)に、筆者が設定した前提値(スイング速度25m/s、eA=0.25〜0.4の範囲)を入れて計算した試算です。「着地角が伸びを決める」という説明、および前進速度の上乗せ量(5km/h前後)も、物理法則からの導出であり、実際のサーブを測定したものではありません。着地点の目安(ベースライン内側20〜40cm)も、測定データではなく一般的な指導上の目安です。鉛テープによる球速向上の数値は、スイング速度が変わらない前提での上限値で、実際にはスイング速度の低下分だけ小さくなります。また、本文で紹介したボルト実験は「静止させたラケットにボールを当てる」形式で行われたもので、実際にスイングするサーブとは条件が異なります。だからこそ、記事内で紹介した「20球×着弾深さ」での実測をおすすめします。

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この記事を書いた人

テニス歴3年・スクール中級者。

※本記事は一般プレーヤーが公開文献をもとに独自にまとめたものです。
専門的なご指摘はコメント・お問い合わせからお待ちしております。

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