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短持ち理論①|ラケットを短く持てばテニスはもっと簡単になる!?

テニスでは、芯に当てる方法ばかり教えられます。

フットワーク、テイクバック、打点を前に、軸足、体重移動——どれも間違いではないと思います。しかし私は、その前に疑うべきことがあるのではないかと考えるようになりました。

そのラケット、あなたには
長すぎるのではないでしょうか。
目次

全員が27インチ、という奇妙な前提

身長150cmの人と190cmの人では、腕の長さも肩幅もまったく違います。ところがテニスでは、ほぼ全員が27インチ(約68.6cm)のラケットを使っています。

ラケット選びでは、重量・バランス・スイングウェイト・フレックス・フェイスサイズ・ストリングパターンと、実に多くの変数がフィッティングの対象になってきました。それなのに「長さ」だけは、なぜか固定値のまま誰も疑いません

先に言っておくと、27インチが間違いだと言いたいのではありません。

本記事の主張

全員にとって27インチが最適だと、無条件に考えることがおかしいのではないか。

一言で言えば——ラケットは重さだけでなく、長さも身体に合わせるべきではないか、ということです。

きっかけは、ただ短く持ってみたこと

私はスクールで、忙しい場面になると打点がわからなくなり、詰まったミスヒットを繰り返すという課題を長く抱えていました。フォームを見直し、フットワークを意識し、ガットも変えました。決定打はありませんでした。

ある日、ふとラケットを数センチ短く持ってストロークを打ってみました。野球でいう「バットを短く持つ」と同じです。

すると、明らかにスイートスポットに当たる感覚が増えたのです。

「スイングウェイトが軽くなるから」では説明がつかない

短く持つと当てやすくなる理由として、まず思いつくのは「スイングウェイトが下がって振りやすくなるから」という説明でしょう。

しかし、それなら最初から軽いラケットを使えば同じはずです。ところが私の経験では、軽い27インチのラケットを振り回すより、重いラケットを短く持って振ったほうが、はるかに安定します。

つまり、効いているのはスイングウェイトではない別の何かだ、と考えざるを得ません。

3つの量に分けると、説明がつきます

混同されやすい3つの量を分解してみます。

短く持つ 軽くする
① 振り出しやすさ
(手元まわりの慣性)
改善 改善
② インパクトで負けない力
(有効質量)
ほぼ維持 低下
③ 手から打点までの距離 短くなる 変わらない

軽量化は①と②を同時に動かしてしまいます。振りやすくなる代わりに、ボールに当たり負けするようになります。

一方、短く持つと、①と③だけが変わり、②はほぼそのまま残ります。インパクトの衝突はわずか数ミリ秒の出来事で、その瞬間の挙動を支配するのはフレームの質量と重心まわりの慣性です。握る位置を変えても、ここはほとんど変わりません。

そして③。角度のズレが打点のズレに変換されるとき、そのズレ量は「角度×半径」で決まります。手から打点までの距離=半径が短いほど、同じ手のブレでも面上のズレは小さくなります。素手ならボールを正確に掴めるのに、68.6cm先の一点を正確に管理するのは難しい——道具が短いほど先端の位置把握が正確になるのは、感覚的にも頷ける話ではないでしょうか。

POINT

短く持つことは、振りやすくする技術ではなく、打点を自分が管理できる距離まで手元に引き戻す方法なのだと思います。

なぜテニスには「短く持つ」という言葉がないのか

面白いことに、この考え方はテニスの外では常識です。

  • 野球には「バットを短く持つ=ミート優先」という共有語彙があります
  • ゴルフではクラブの長さを身体に合わせてフィッティングするのが当たり前です
  • ジュニアラケットは身長で長さを選びます。つまり「長さを身体に合わせる」ことを、テニス界は子どもに対してだけは実践しています

さらに言えば、両手バックハンドは構造的に「短く持っている」のとほぼ同じです。多くの人が「バックのほうが安定する」と感じる理由の一端は、ここにあるのかもしれません。

テニス界はすでにこの原理を随所で使っているのに、大人のストロークに適用する名前だけが存在しないのです。

そして、もうひとつ奇妙なことがあります。「短く持て」自体は、テニス界でも断片的には語られているのです。速いサーブのリターンでは短く持て、ボレーでは短く持て、初心者はまず短く持って——コーチが場面限定の小技として教えることはありますし、プロが実際にやっている場面もあります。

しかし、「ゲーム全体を通して短く持ってプレーしたほうが良い」と正面から推奨している人は、私の調べた範囲では見つかりませんでした。場面ごとには認めているのに、常用は誰も勧めない。効果があると認めている技術を、なぜ緊急時にしか使わないのでしょうか。これ自体がおかしいと私は思うのです。

なお、常用に近い実例が皆無というわけではありません。モニカ・セレシュやファブリス・サントロは両側両手打ちでグランドスラムを含むキャリアを築いており、両手打ちは構造的に「短く持っている」状態に近いものです。世界1位まで上り詰めた選手が、実質的に短い操作距離でプレーし続けた例は存在します。ただし、それを「距離の理論」として言語化した人はいない、というのが現状だと思われます。

命名

名前がないなら、作るしかありません。本記事ではこれを「短持ち(みじかもち)」と呼び、手からスイートスポット(芯)までの距離を「芯距離(しんきょり)」と呼ぶことにします。短持ちとは、芯距離を自分が管理できる長さまで縮める方法です。

ただし、短持ちは「無料」ではありませんでした

ここからが、実際に試して初めてわかったことです。

短く持ってプレーを続けるうち、あることに気づきました。手に伝わる衝撃が、むしろ増えているのです。明らかに、通常の握りよりダイレクトに響いてきます。

調べてみると、これには物理的な理由がありました。ラケットには「そこに当たると手への衝撃が最小になる点」=打撃の中心(COP:Center of Percussion)があります(Tennis Warehouseの用語解説では、COPに当てられれば衝撃のないショットになると説明されています)。重要なのは、COPが握る位置(回転軸)との関係で決まるという点です

握りを3cm上げると、COPはフェイスの先端側へ、上げた量よりやや大きい3.5〜4cmほど移動します(一般的な300g級ラケットのスペックで計算した概算値です)。ところが実際にボールを当てる位置は変わっていないので、通常の握りでフェイス中央付近に当てていた場合、打点とCOPのズレは2〜3倍程度に拡大する計算になります。当たり負けはしていないのに、衝撃最小点からは外れている——「よく飛ぶのに手に響く」という不思議な感触の正体は、これだと思われます。

なお、手に来る不快感には「衝撃(COPからのズレ)」と「振動(ノードと呼ばれる別の点からのズレ)」の2種類があり、ここで扱ったのは前者です(実際のフォアハンドでは、プレーヤーはこの2つの最適点のどちらにも当てられていないことを示した研究もあります)。

注意

つまり短持ちとは、芯当ての精度を買う代わりに、手への衝撃を代金として払う取引です。テニス肘に不安のある方は、この点を必ず頭に入れておいてください。対処法は2つあります。

  1. 短くする量を1.5cm程度に抑える(ズレはほぼ半分になります)
  2. 打点を気持ち先端寄りに取る(移動したCOPに打点を合わせ直します)

結論:「芯距離」もフィッティングすべき変数ではないか

まとめます。

  • 芯に当たらないなら、フォームを直す前に、打点を手に近づけてみる価値があります
  • 短持ちは操作性を上げながら当たり負けしにくさを保てる、軽量化にはない特性を持ちます
  • ただし手への衝撃は増えるため、量の調整が必要です
  • だからこそ、これは「正解の持ち方」ではなく、重量やスイングウェイトと同じように個人ごとに最適化すべき変数なのだと思います

27インチという固定値を、「芯距離」という調整可能な変数に置き換えること。ラケットフィッティングに新しい軸をひとつ加えること。それがこの記事の提案です。

最後に:これはまだ仮説です

正直に書いておくと、この理論の根拠は現時点で私自身の体感(n=1)です。新しいことを試した直後の集中力や、リラックスして打てた効果が混ざっている可能性も否定できません。

そこで今後、同じ練習日の中で「短持ち20球→通常20球→短持ち20球」と交互に打ち分け、感覚ではなくクリーンヒットの本数で比較する検証を行う予定です。結果は本ブログで続報としてお伝えします。

もし読者の皆さんも試されることがあれば、まずはリターンやボレーなど副作用の出にくい場面から、1.5cm程度の控えめな短持ちで始めてみてください。そして、効いたか効かなかったか、ぜひ教えていただければと思います。

「短持ち」という言葉が、いつか野球の「短く持つ」のように当たり前に通じる日が来たら、この記事はその初出ということになります。そうなったら、少し愉快ですね。

本シリーズの構成:本記事は短持ち理論の序説です。続編では「なぜメーカーは芯を広げるばかりで、芯を近づけようとしないのか」という業界側の話と、そこから生まれるひとつの製品提案(第2回・ミートラケットという提案)を書いています。また、打ち分け検証の結果は、データが揃い次第、検証報告としてお伝えする予定です。

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この記事を書いた人

テニス歴3年・スクール中級者。

※本記事は一般プレーヤーが公開文献をもとに独自にまとめたものです。
専門的なご指摘はコメント・お問い合わせからお待ちしております。

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