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短持ち理論③|上手い人ほどラケットを端で持つのはなぜか?

第1回で「短持ち」と「芯距離」という考え方を、第2回で「ミートラケット」という製品提案を書きました。今回は、あえて逆側の話をします。

テニス界の常識は、短持ちの正反対——「できるだけ端を持て」だからです。

短持ちを提案しておいて常識側の言い分を聞かないのはフェアではありません。この記事では、端持ちがなぜ正しいのかをまず認めたうえで、それでも端持ちをそのまま真似しなくてもよいのではないか、と考える理由を整理します。

目次

テニス界には、グリップ位置の「正解」がすでにあります

スクールや教本では、「グリップエンドぎりぎりを持ちましょう」「小指が少し余るくらいでいい」と教えられることが多いのではないでしょうか。実際、上級者やプロのグリップを見ると、ほとんどの選手が端いっぱいを握っています。

つまりテニス界は、グリップ位置に無関心なわけではありません。「長く持て」という明確な指導が存在するのです。短持ちはこの常識への挑戦ですから、まず常識側の言い分を、ごまかさずに聞くべきだと思います。

端持ちの言い分は、物理的に全部正しい

先に結論を言うと、端持ちの利点は本物です。3つあります。

1. 同じスイングで、先端速度が上がります。
ラケット先端の速度は「角速度×半径」で決まります。同じ速さで腕を振るなら、回転半径が長いほどヘッドは速く走ります。端を持つことは、追加の筋力なしでパワーを増やせる、いちばん安い方法だと言えるでしょう。

2. リーチが最大化されます。
遠いボールに届くかどうかは、そのまま失点に直結します。数cmのリーチ差が拾えるかどうかを分ける場面は、確かに存在します。

3. ヘッドが走る分、スピンもかけやすくなります。
スピン量はインパクト時のヘッドスピードに大きく依存しますから、半径を長く使えることはスピンにも有利に働きます。

ここまでは、私も全面的に同意します。端持ちの利点は本物です。

ただし、端持ちには「入場料」があります

問題は、この利点がタダではないことです。第1回で書いた原理をもう一度使います。

角度のブレが打点のズレに変換されるとき、そのズレ量は「角度×半径」で決まります。半径を長く使うということは、パワーが増えるのとまったく同じ理屈で、手元の同じブレが面上ではより大きなズレに拡大されるということです。パワーと誤差の増幅率は、同じ式の表と裏なのです。

つまり、こう整理できます。

端持ち 短持ち
先端速度(パワー) 最大 やや減る
(減り幅は後述)
リーチ 最大 数cm減る
同じ手ブレによる打点のズレ 拡大されやすい 縮小される
打点の位置把握 遠く、難しめ 近く、やさしい
インパクトで負けない力(有効質量) 維持 ほぼ維持
手への衝撃 設計どおり 増えやすい
(COPのズレ・第1回参照)

端持ちとは、「打点精度がすでに足りている人が、余った精度をパワーとリーチに換金できる持ち方」なのだと思います。

上級者が端を持つのは、端を持つから上手いのではなく、上手いから、端を持つ入場料を払える——因果が逆なのではないでしょうか。

しかも、換金レートは対称ではないようです

ここで、中級者にとって重要な概算をひとつ加えます。「短く持つとパワーが落ちる」ことを心配される方は多いのですが、失うパワーと得られる精度は、同じ3cmでも効き方が違う可能性が高いのです。

理由は、2つの「半径」の測り方が違うからです。

  • パワー側の半径は、スイングの回転中心(体幹・肩)からラケット先端まで。腕の長さを含むため、大人ではおおよそ1m以上になります。ここから3cm縮めても、割合にして2〜3%程度です。
  • 誤差側の半径は、手から打点まで。約55cm前後ですから、同じ3cmでも5%以上の縮小になります。

さらに、短く持つと手元まわりの慣性が下がる分、同じ力でもわずかに速く振れるため、パワーの損失は半径の差ほどには開かない可能性もあります。あくまで単純化した概算であり、実際のスイングは多関節の複雑な運動ですが、少なくとも「3cm短く持ったらパワーが3cm分がっつり落ちる」という直感は、実態より悲観的すぎると思われます。

POINT

支払いは小さく、受け取りは大きい——短持ちが割に合いやすいのは、この非対称性のためではないでしょうか。

なぜ因果が逆転して伝わったのか

指導の現場では、上級者の形が「正解の形」として初中級者に降りてきます。プロがやっている→それが正しいフォーム→だから最初からそう教える、という流れ自体は自然です。

しかし、プロの形にはプロの前提条件が付いています。毎日何百球も打って維持している打点精度です。形は真似できても、前提条件は真似できません。

ここで面白いのが野球との対比です。野球では「パワーヒッターは長く持つ、ミート重視なら短く持つ」と、打者のタイプによってグリップ位置を使い分ける語彙が共有されています。長く持つことが上手さの証明だとは誰も考えていません。単なる選択です。

テニスだけが、全員に上級者側の持ち方を一律に教えているのではないでしょうか。

「どちらが正しいか」ではなく「あなたはどちら側か」

ここまで来ると、問いの立て方が変わります。端持ちと短持ちのどちらが正しいかではなく、あなたのミスの内訳がどちらの持ち方に向いているかです。判定の目安を表にします。

あなたの主なミス・悩み 向いている側 理由
詰まる・先っぽに当たる・芯を外す 短持ち側 誤差の増幅率を下げるのが先決だからです
忙しい場面で打点がわからなくなる 短持ち側 打点を管理できる距離に引き戻す効果が大きいからです
芯には当たるが、押し負ける・飛ばない 端持ち側 精度は足りており、半径をパワーに使えるからです
あと一歩でボールに届かないことが多い 端持ち側 リーチの数cmがそのまま効くからです
芯にも当たり、パワーも足りている どちらでも すでに換金が成立している状態だからです

私の見立てでは、スクールの初中級〜中級で失点の主因になっているのは、押し負けや届かなさよりも、ミスヒットであるように見えます。もしそうなら、この層の多くにとっての最適解は、教わってきた端持ちではなく短持ち側にある可能性がある——これがシリーズを通じた主張です。

なお、これは固定の選択でもありません。ストロークは短持ち、リーチが要るリターンや守備の場面は端持ち、と場面で使い分けることもできますし、上達して打点精度が上がったら、少しずつ端に戻して精度をパワーに換金し直すこともできます。グリップ位置は一度決めたら終わりの「フォーム」ではなく、いつでも調整できるスライダーだと考えるほうが実態に合っていると思います。

まとめ:端持ちは間違いではありません

最後に、誤解のないようにもう一度書いておきます。端持ちは間違いではありません。パワーとリーチにおいて物理的に正しく、打点精度が足りている人にとっては最適解です。

本記事の結論

端持ちが間違いなのではない。全員に端持ちが最適だと、無条件に考えることがおかしい。

第1回とまったく同じ構文になりました。27インチという長さも、端いっぱいのグリップも、問題はそれ自体ではなく、「全員への一律適用」のほうにあります。重量やスイングウェイトと同じように、芯距離もグリップ位置も、自分のミスの内訳に合わせて選ぶ変数ではないでしょうか。

本シリーズの構成第1回・短持ち理論の序説第2回・ミートラケットという提案/第3回(本記事)。短持ちの効果検証(打ち分けテスト)の結果は、データが揃い次第、検証報告としてお伝えする予定です。

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この記事を書いた人

テニス歴3年・スクール中級者。

※本記事は一般プレーヤーが公開文献をもとに独自にまとめたものです。
専門的なご指摘はコメント・お問い合わせからお待ちしております。

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