この記事でわかること
- サーブでジャンプして打点が5cm・10cm上がると、入る確率はどれだけ変わるのか
- プロは実際に何cm跳んでいるのか(実測データ)
- ジャンプの本当の価値はどこにあるのか
- 中級者はどんなイメージでサーブを打つのがよさそうか
先に結論です
- ジャンプで打点が10cm上がっても、入る確率は+4〜7%にしかなりません。
- プロは垂直跳で37cm跳べるのに、サーブでは12cmしか跳んでいません。
- 効いているのはジャンプの高さではなく脚から始まる運動連鎖です。跳ぶことは目的ではなく結果でした。
- 中級者は「深く沈む・軽く浮く・前に出る」で十分。高く跳ぶ必要はありません。
サーブを教わるとき、「ジャンプして高い打点で打ちなさい」と言われた経験はないでしょうか。私も長いことそう思ってきました。打点が高ければ、それだけネットを越えてサービスボックスに入る角度に余裕ができる。感覚としてはとても納得のいく話です。
ただ、実際にどのくらい変わるのかという数字は、あまり見かけません。そこで今回は、実際に軌道を計算し、あわせて研究データを調べてみました。結果は、正直なところ予想とはかなり違うものでした。
1. まず「打点が高いと入りやすい」の理屈を確認します
サーブは、ネット(高さ0.914m)を越えて、その先6.40mしかないサービスボックスに落とさなければいけません。この「入る角度の幅」のことを、ここでは許容角度と呼ぶことにします。
打点が高いほど、この許容角度は広がります。ここまでは間違いありません。
有名な話として、東京大学運動会庭球部のブログにこんな計算が紹介されています。サービスラインからネットの上端に向かって伸ばした直線は、ベースラインの2.61m上空を通過する、というものです。そして「170cmの人のサーブの打点は2.5m程度」なので、身長の低い人の打点からはサービスラインを見ることができない、と書かれています。
つまり、多くのアマチュアの打点では、直線ではそもそもサーブは入らないということになります。
ここだけを見ると、「やはり打点の高さがすべてだ」と思えてきます。私も最初はそう考えていました。
ただ、この計算には重力も空気抵抗も回転も入っていません。同じブログも「重力を受けながら空中を運動する物体は放物線を描く」「空気による抵抗も受けるため、放物線軌道で予想される落下点よりも前に落ちる」として、直線軌道という前提そのものが誤りだと結論しています。
条件を現実に近づけて計算し直すと、話がかなり変わってきます。
2. 打点5cm・10cmで、入る確率はどれだけ変わるのか
空気抵抗(抗力)と回転による揚力(マグヌス力)を入れた軌道シミュレーションで計算してみました。
身長176cmのプレーヤーを想定し、ジャンプなしの打点を2.62mと置いています。そこから5cm・10cm・13cm高くなった場合の許容角度の変化です。
表1:打点の高さと許容角度の関係
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| サーブの種類 | 打点2.62m跳ばない | +5cm2.67m | +10cm2.72m | +13cm2.75m |
|---|---|---|---|---|
| フラット系140km/h・800回転 | 2.429° | 2.512°+3.4% | 2.594°+6.8% | 2.643°+8.8% |
| スライス系125km/h・1500回転 | 3.460° | 3.542°+2.4% | 3.623°+4.7% | 3.672°+6.1% |
| スピン系115km/h・2000回転 | 4.320° | 4.401°+1.9% | 4.483°+3.8% | 4.531°+4.9% |
※回転数は1分あたりの回転数(rpm)。中級者を想定した値です。センターへのサーブを想定しています。
思っていたよりもずっと小さい数字ではないでしょうか。10cm跳んでも、許容角度は4〜7%しか広がりません。
しかも面白いのは、回転をかけるサーブほど効果が小さくなるという点です。スピン系では10cm跳んでも+3.8%にとどまります。これは、回転によってすでに許容角度が広がっているため、そこに高さを足しても伸びしろが少ないからだと考えられます。
ここで大事なのは「絶対値」のほうです
表1をもう一度見ていただきたいのですが、実は増加率よりも重要な数字がそこにあります。ジャンプする前の時点で、サーブの種類によって許容角度がまったく違うという点です。
表2:サーブ種別ごとの許容角度(打点2.62m・全員ジャンプなし)
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| サーブの種類 | 許容角度 | フラット比 | 差 |
|---|---|---|---|
| フラット系140km/h・800回転 | 2.429° | 1.00倍 | 基準 |
| スライス系125km/h・1500回転 | 3.460° | 1.42倍 | +42% |
| スピン系115km/h・2000回転 | 4.320° | 1.78倍 | +78% |
スピン系は、フラット系の1.78倍の許容角度を持っています。打点はまったく同じ2.62mです。
この差を打点の高さで埋めようとすると、どうなるでしょうか。フラット系で13cm跳んでも許容角度は2.643°にしかなりません。ジャンプなしのスピン系(4.320°)のほうが、13cm跳んだフラット系よりも63%広いのです。
つまり、ジャンプで稼げる数cmは、サーブの種類を変えることで得られる差に比べると、ほとんど誤差の範囲だということになります。
ただし、これは回転だけの効果ではありません
ここは正直に分解しておく必要があります。上の3つは球速も違うため、「回転が効いた」のか「遅いから効いた」のかが混ざっています。球速と回転を独立に変えて計算し直しました。
表3:球速と回転、どちらが許容角度を広げているのか(打点2.62m)
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| 800回転 | 2000回転 | 回転の効果 | |
|---|---|---|---|
| 140km/h | 2.429° | 3.116° | +28% |
| 115km/h | 3.468° | 4.320° | +25% |
| 球速の効果 | +43% | +39% | 合計 +78% |
意外なことに、球速を落とすことのほうが、回転を増やすことよりも効いています(+43% 対 +28%)。遅いボールほど落下する時間が長く、重力が仕事をしてくれるからです。
ただしこの比較は、変化幅が対等ではない点にご注意ください。球速は140→115km/h(18%減)、回転は800→2000rpm(150%増)と、動かした量がまったく違います。「球速のほうが効率が良い」という意味ではなく、「この程度の現実的な変化幅で比べると、球速側の寄与も無視できない」という読み方が正確だと思われます。
ただし、球速を落とすのはタダではありません。遅いサーブは相手に時間を与えるので、入っても打ち込まれてしまいます。ですので実戦的には、球速を維持したまま回転を足すのが正しい方向ということになります。表3の上の行(140km/hのまま800→2000回転で+28%)が、その現実的な選択肢です。
これは、東京大学運動会庭球部の記事が最後に書いている結論とも一致します。同記事は200km/hのフラットサーブを計算したうえで、「日本人体型の皆さんは速いフラットサーブを練習するのではなく、回転系のサーブを習得するのが良さそうです」と締めくくっています。
3. では、プロは実際に何cm跳んでいるのか
ここが今回いちばん驚いた部分です。
イタリアの研究グループ(Dossena、Rossi、La Torre、Bonato)が、プロ選手8名を対象にジャンプ高を計測しています。2016年のヨーロッパスポーツ科学会議(ECSS)で発表され、2018年に論文としてまとめられたものです。
対象:プロテニス選手8名(平均年齢20歳前後、身長181±3cm、ラケットを持って腕を伸ばした高さ283±5cm)。うち4名はATP世界ランキング300〜800位の「エリート群」、残り4名が「プロ群」
表4:サーブ時のジャンプ高(実測)
| 対象 | セカンドサーブのジャンプ高 |
|---|---|
| エリート群ATP300〜800位 | 13.6 ± 2.2cm |
| プロ群 | 10.7 ± 2.3cm |
トップレベルでも10〜14cmでした。テレビで見ていると、もっと跳んでいるように見えていたので、これは意外でした。
さらに同じ選手たちに、その場でしゃがんで真上に跳ぶ垂直跳(CMJ)も測定しています。
表5:垂直跳と、サーブで実際に跳ぶ高さ
| 測定項目 | 高さ |
|---|---|
| 垂直跳(CMJ) | 37.29 ± 4.94cm |
| 腕振りありの垂直跳(CMJF) | 44.46 ± 6.22cm |
| ファーストサーブ時のジャンプ | 12.42 ± 3.28cm |
| セカンドサーブ時のジャンプ | 13.04 ± 2.46cm |
垂直跳では37cm跳べる選手が、サーブでは12cmしか跳んでいません。約3分の1です。
ただし、ここは慎重に読む必要があります
「跳べるのに跳んでいない」と言い切ってしまうのは、少し乱暴かもしれません。
垂直跳は両足で真上に跳ぶだけの動作ですが、サーブのジャンプは体をひねりながら、ラケットを振りながら、片足寄りの支持で行うものです。そもそも垂直跳と同じ跳び方はできません。
ですので、この数字が示しているのは「手を抜いている」ということではなく、サーブというのは跳ぶための動作ではない、ということなのだと思われます。
なお同じ研究では、エリート群のほうが垂直跳に対する使用率が高い(ファーストサーブでCMJの37±4% 対 27±8%)という結果も出ています。ただしジャンプ高の違いにもかかわらず、エリート群とプロ群でボールスピードに有意な差は検出されませんでした。
この研究は8名という非常に小さいサンプルです。数字を絶対視せず、傾向として受け取るのがよさそうです。
4. 脚を使うこと自体には、はっきりした効果があります
ここで誤解のないように書いておきたいのですが、「脚を使わなくていい」という話ではまったくありません。むしろ逆です。
膝の動きを制限してサーブを打たせるという、なかなか思い切った実験があります。
表6:膝を固定するとどうなるか(Girard et al. 2007)
| 測定項目 | 通常のサーブと比べて |
|---|---|
| 最大鉛直床反力 | 低下 |
| インパクト位置(打点) | 低下 |
| ボール速度 | 低下 |
対象:30名(初心者・中級者・上級者の3グループ)。膝関節を10度に固定する装具をつけ、屈伸できない状態でフラットサーブを15球。3項目すべてでp<0.001の有意差。
膝を使えなくすると、床を押す力も打点もボール速度もすべて落ちる。脚が大事だということは、これではっきりしています。
そして、中級者を対象にした研究では、さらに示唆的な結果が出ています。
表7:膝の曲げ具合による違い(中級レベルのジュニア32名)
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| インパクト直前の ラケット速度 | 膝を深く曲げる群が平均3.33km/h速い(p=0.004) |
| 膝の伸展速度 | 深く曲げる群が130.30°/s速い(p=0.012) |
| インパクトの高さ打点 | 有意な差なし(p=0.236) |
膝の曲げ具合は、少ない群が55.6°、多い群が74.7°でした。
速度は上がるのに、打点の高さは変わらない。
さらに強い証拠として、2025年に発表された介入研究があります。こちらは「膝を深く曲げる練習をさせたらどうなるか」を実際に試したものです。
表8:膝を曲げる練習をさせた結果(ジュニア20名の介入研究)
| 項目 | 変化 |
|---|---|
| サーブ時の膝の曲げ | +31°p<0.001 |
| ラケット速度 | +1.38km/hp=0.036 |
| インパクトの高さ | 変化なしp=0.331 |
| 骨盤の上方向の速度 | +0.27m/sp<0.001 |
比較のためのグループを設けた介入研究なので、「膝を曲げるようにしたから速くなった」という因果関係が言える形になっています。
そして結果は同じでした。速度は上がるが、打点の高さは変わらない。
つまり、脚を使ったリターンは、打点の高さではなくラケットのスピードとして返ってきているということになりそうです。
5. 研究の見解が完全に一致しているわけではありません
ここは正直に書いておきます。
先ほど紹介したイタリアの研究グループは、学会発表(2016年)と論文(2018年)で、少し違う書き方をしています。
表9:同じ研究グループによる2つの結論
| 発表 | 結論 |
|---|---|
| ECSS 2016学会抄録 | 「サーブでより高いジャンプに到達することは、ファースト・セカンドどちらでも有効とは思われない」「トップレベルの選手のコーチは、ジャンプ高よりもサーブ技術に力を入れるべきである」 |
| 2018年論文 | ジャンプ高と球速にわずかな正の相関(P=0.049、r=0.71)。「サーブでより高い打点に到達できれば、より速く打てる可能性がある」 |
同じデータから、少し異なるニュアンスの結論が出ています。
ただし論文のほうも、そのすぐ後に「テニスのサーブは運動連鎖全体による複雑な協調動作であるため、コーチは選手の協調性のスキルにもっと注目すべきである」と続けています。ジャンプを増やせという主張にはなっていません。
また別の研究グループ(Sánchez-Payら 2021)は、垂直跳の能力と球速には相関があるものの、サーブ時のジャンプ高と球速には相関がなかったと報告しています。これを引用した論文では、サーブのジャンプが垂直ではなく前方向(ネット方向)のものであることが理由として挙げられています。ただしこの点は原論文を直接確認できていないため、参考程度にお考えください。
こうして並べてみると、共通する構造が見えてくるようにも思います。「脚が強いこと」「脚を使うこと」は球速に効く。しかし「高く跳ぶこと」自体が効いているという証拠は弱い、という形です。
6. では、何を優先すればよいのか
打点の高さがそれほど効かないとすると、代わりに何が効くのでしょうか。同じ条件で、回転数だけを増やして計算してみました。
表10:打点を上げるのと、回転を増やすのはどちらが効くか
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| 変更内容 | フラット系 | スライス系 | スピン系 |
|---|---|---|---|
| 打点 +5cm | +3.4% | +2.4% | +1.9% |
| 打点 +10cm | +6.8% | +4.7% | +3.8% |
| 回転 +500rpm | +12.9% | +8.4% | +6.4% |
回転を500回転増やすほうが、10cm跳ぶよりも効果が大きいという結果になりました。フラット系にいたっては、10cm跳ぶことの約2倍です。
これには理由があります。中級者の球速はプロほど速くないため、同じ回転数でもマグヌス効果がより強く働くのです。ロッド・クロス氏とクロフォード・リンジー氏がテニスボールの飛行を実測した研究では、揚力係数はスピンパラメータ(ボール表面の回転速度÷ボールの進む速さ)に対して整理されています。同じ回転数でも球速が遅いほどこの値が大きくなるため、軌道の曲がりが増えるという関係になります。
つまり、球速が出ない中級者ほど、回転への投資効率が高いということになります。これは少し嬉しい話ではないでしょうか。
参考:エリート選手の回転数
自分の回転量を評価する物差しとして、実測値を挙げておきます。エリート男子選手7名を3次元計測した研究の値です。
表11:エリート男子選手のサーブ回転数(実測)
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| サーブの種類 | 回転数 | 水平方向の初速 |
|---|---|---|
| フラット | 約1,220 rpm | 52.0 m/s約187km/h |
| スライス | 約2,220 rpm | 46.4 m/s約167km/h |
| キック | 約3,210 rpm | 40.8 m/s約147km/h |
エリート選手でもキックサーブで3,200回転程度です。中級者であれば、キック系で2,000回転前後が現実的な目安ではないかと思われます(こちらは筆者の推定で、中級者の実測データは公開されているものが見つかりませんでした)。
なお、この研究は回転数と球速に明確なトレードオフがあることも示しています。回転をかけるほど、球速は落ちるということです。
7. 結論:最初の4つの質問に答えます
情報が多くなったので、冒頭に挙げた4つの問いに、ひとつずつ短く答えていきます。
5cmで+2〜3%、10cmで+4〜7%です。 100球打って2〜4球の違いになります。しかも回転をかけるサーブほど効果は小さくなり、スピン系では10cm跳んでも+3.8%にとどまりました。
10〜14cmです。 同じ選手の垂直跳が37cmであることを考えると、跳べる高さの3分の1しか使っていないことになります。ただし垂直跳とサーブでは跳び方そのものが違うので、「手を抜いている」わけではなく、サーブが跳ぶための動作ではないということだと思われます。
打点の高さではなく、ラケットのスピードです。 膝を固定するとボール速度が落ち、膝を深く曲げるとラケット速度が上がる。ところが打点の高さは、どちらの研究でも変わりませんでした。2025年の介入研究でも同じ結果です。
脚が生んでいるのは高さではなく速度で、ジャンプはその過程で体が浮いた結果にすぎない、という整理になります。
「高く跳ぶ」ではなく「深く沈んで、素早く伸ばす」です。 そして脚で得た速度を、球速ではなく回転に配分する。理由は次の優先順位表の通りです。
中級者が取り組む優先順位
表12:何から手をつけるべきか
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| 順位 | 取り組むこと | 根拠 | 効果の目安 |
|---|---|---|---|
| 1位 | 深く沈んで素早く伸ばす運動連鎖の起点 | 膝屈曲の研究・介入研究の両方でラケット速度が向上 | ラケット速度 +1.4〜3.3km/h |
| 2位 | 得た速度を回転に配分する | 回転+500rpmで許容角度が拡大(本記事の計算) | 許容角度 +11〜13% |
| 3位 | 打点の高さ | 効果は小さい。ブラシ経路と競合したら捨ててよい | 許容角度 +4〜7% |
| 対象外 | 高く跳ぶこと自体 | ジャンプ高と球速の相関は弱く、研究でも推奨されていない | — |
要するに、ジャンプの高さよりも、脚から始まる運動連鎖のほうが圧倒的に大きいということです。そして運動連鎖で得たものは、打点の高さではなくラケットのスピードとして返ってくる。この2点が、この記事でお伝えしたかったことのすべてです。
お手本は「試合のフェデラー」ではなく「練習のフェデラー」かもしれません
言葉で説明するより、実際の動きを見ていただくほうが早いかもしれません。
出典:YouTube
まず断っておくと、これは試合ではなく練習の映像で、まったく全力ではありません。足もほんの少ししか浮いていません。試合であればもっと沈み込み、もっと跳んでいます。
ただ、私が言いたいのはここです。中級者が目指すべきなのは、案外このレベルなのではないかということです。
理由1:跳躍量を削っても、失うものが小さい
ここまで見てきた通り、トップ選手が全力で跳んでも12〜14cmで、その高さが球速に効いているという証拠は弱いものでした。打点の高さで得られるのは許容角度+4〜7%です。つまり、跳躍量を削っても失うものは最初から小さいということになります。
理由2:運動連鎖は跳ばなくても成立する
膝を曲げる練習をさせた介入研究では、ラケット速度が上がった一方で打点の高さは変わりませんでした。脚の仕事は「体を持ち上げること」ではなく「地面を押して連鎖を起こすこと」です。沈んで伸ばす動作さえあれば、跳躍量が小さくても運動連鎖のリターンは受け取れます。
理由3:再現性と体力が残る
空中に高く浮くほど、トスとの同期という変数が増えます。また、週に何時間もコートに立てない社会人にとって、1試合でサーブを50本、80本と打つ体力配分は現実的な問題です。削れるコストを削って、リターンの大きい部分だけを取りに行く。この形が、もっとも効率が良いのではないでしょうか。
ただし、ひとつだけ勘違いしないでいただきたい点があります。 「跳ばなくていい」のであって「脚を使わなくていい」ではありません。削ってよいのは跳躍量だけで、沈み込みの深さは手を抜かないのが正解です。膝を固定した実験では床反力・打点・球速のすべてが落ちていました。沈み込みまで浅くしてしまうと、運動連鎖そのものが失われます。
整理すると、この映像から真似すべきなのは「深く沈む」「軽く浮く」「前に出る」の3つで、真似しなくてよいのは「高く跳ぶ」だということになります。
明日から試せる3ステップ
ステップ1:跳ぶ意識を捨てて、沈み込みだけを数える
「どれだけ跳べたか」ではなく「どれだけ沈めたか」に注意を向けます。ジャンプ量は結果として出てくる数字なので、そこを狙うと脚を早く伸ばしすぎて運動連鎖の順番が崩れてしまいます。
ステップ2:着地位置を確認する
ベースラインの内側30〜50cmに着地しているかを見ます。その場で真上に跳んで同じ場所に落ちているなら、前方向の運動量が使えていないサインです。
ステップ3:自分の回転数を測ってみる
スマートフォンの240fpsスロー撮影で、ボールに引いた線が1回転するコマ数を数えます。回転数は「240 ÷ 1回転のコマ数 × 60」で計算できます。2,000回転なら1回転あたり約7コマなので、十分に数えられる分解能です。
表11のエリート選手の数値と比べれば、自分がどのあたりにいるかが見えてきます。優先順位の1位と2位が機能しているかを確かめる、いちばん確実な方法だと思われます。
この記事の数字まとめ
表13:本記事で扱った数値の一覧
| 項目 | わかったこと |
|---|---|
| 打点 +5cm | 許容角度 +2〜3% |
| 打点 +10cm | 許容角度 +4〜7% |
| サーブ種別の差 | スピン系はフラット系の1.78倍(同じ打点で) |
| プロのジャンプ高 | セカンドサーブで10〜14cm |
| プロの垂直跳 | 37cm(ただしサーブでは同じ跳び方はできない) |
| 膝を固定すると | 床反力・打点・球速がすべて低下 |
| 膝を深く曲げると | ラケット速度+3.33km/h、打点の高さは変わらない |
| 膝を曲げる練習をすると | ラケット速度+1.38km/h、やはり打点の高さは変わらない |
| 回転 +500rpm | 許容角度 +11〜13%(打点10cmの約2倍) |
おことわり
このシミュレーションは信頼できるのか
自分の計算をそのまま信じてくださいとは言いにくいので、独立した計算と突き合わせてみました。
先ほどの東京大学運動会庭球部の記事は、200km/hの無回転サーブについて、抵抗係数0.39・ボール質量57.7gという条件で軌道を数値計算し、打点ごとの許容角度を出しています。同じ条件を筆者のシミュレーションに入れて比較しました。
表14:独立した計算との照合(200km/h・無回転)
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| 打点 | 東大庭球部 | 本記事のモデル同条件 | 一致度 |
|---|---|---|---|
| 2.3m | ぎりぎり入る | 0.27° | 一致 |
| 2.5m | 0.4° | 0.60° | やや広め |
| 3.3m | 1.9° | 1.90° | ほぼ完全一致 |
打点3.3mでは小数第1位まで一致しました。打点2.5mでは差が出ていますが、この領域は許容角度が0.5°を切る極端に狭い条件で、刻み幅や定数のわずかな違いが増幅されやすい場所です。全体としては、モデルは妥当な範囲に収まっていると考えてよさそうです。
なお本記事の表1〜3では、回転量に応じて抵抗係数が変化する経験式(無回転時0.55)を使用しています。上の照合は東大庭球部の条件に合わせて0.39固定で計算したものです。
抵抗係数のモデルには議論があります
正直に書いておくと、ここには不確かさが残っています。クロス氏とリンジー氏の実測研究では、テニスボールの抗力係数は0.507±0.024で、球速にも回転にも依存しないという結果が出ており、しかも回転しているボールのほうが回転していないボールより抗力係数が小さかったと報告されています。本記事が使っている経験式は、回転が増えると抗力係数も増える形になっているので、この実測とは傾向が逆です。
そこで、クロス氏らの実測値(0.507固定・回転非依存)に差し替えて全部を計算し直してみました。
表15:抗力モデルを変えた場合の感度チェック
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| 項目 | 本記事のモデル | クロス実測値Cd=0.507固定 |
|---|---|---|
| スピン系はフラット系の何倍か | 1.78倍 | 1.69倍 |
| ジャンプなしスピン系 vs 13cm跳んだフラット系 | +63% | +54% |
| 打点+10cmの効果 | +6.8% | +7.2% |
| 回転+500rpmの効果 | +12.9% | +11.2% |
数字は多少動きますが、「回転のほうが打点の高さより効く」「サーブの種類による差のほうがジャンプより大きい」という結論はどちらのモデルでも変わりませんでした。この記事の主張は、抗力モデルの選び方に左右されない範囲に収まっていると考えてよさそうです。
計算値について:この記事の許容角度の数値(表1・2・3・10)は、筆者が空気抵抗と回転を含めた軌道シミュレーションで計算した概算値であり、実測データではありません。また、横方向の回転(サイドスピン)を含まない縦断面のみのモデルであるため、実際のキックサーブなどはこの計算よりも余裕がある可能性があります。数字そのものよりも、「打点の高さと回転量では効き方の桁が違う」という関係性のほうを受け取っていただければと思います。
研究データについて:ジャンプ高・膝の屈曲・床反力・回転数に関する数値は、査読付き論文および学会発表の実測データです。ただしサンプル数が8名・7名と小さい研究も含まれるため、個人差が大きい可能性があります。
指導への敬意について:この記事は「ジャンプして打てと教えるコーチが間違っている」という趣旨ではまったくありません。深く沈んで脚を伸ばせば、結果として体は浮きます。指導の現場で「ジャンプして」と伝えるのは、その動作を引き出すための表現として非常に有効なものだと思われます。この記事はあくまで、その動作の中で何が効いていて何が効いていないのかを分解してみたものです。
参考文献・出典
ジャンプ高の実測(同一研究グループによる学会発表と論文)
- Dossena F, Rossi C, La Torre A, Bonato M. “Jump height analysis on tennis serve”(ECSS 2016 学会抄録 / SPONET)
https://www.sponet.de/Record/4048110 - Dossena F, Rossi C, La Torre A, Bonato M. “The role of lower limbs during tennis serve”(J Sports Med Phys Fitness 2018;58(3):210-5 / PubMed)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27792219/
脚の動きと球速
- Girard O, Micallef JP, Millet GP. “Influence of restricted knee motion during the flat first serve in tennis”(J Strength Cond Res 2007;21(3):950-7 / PubMed)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17685715/ - Hornestam JF et al. “The Effects of Knee Flexion on Tennis Serve Performance of Intermediate Level Tennis Players”(Sensors 2021 / PMC)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8398391/ - “Training junior tennis players to increase knee flexion improves their service performance”(Sports Biomechanics / Taylor & Francis)
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/14763141.2025.2568220
ジャンプ高と球速の相関について
- Prediction of Service Performance Based on Physical Strength in Elite Junior Tennis Players(Frontiers / PMC)※Sánchez-Payら2021の知見はこの論文中の引用によります
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9164153/
回転数の実測
- Sakurai S, Reid M, Elliott B. “Ball spin in the tennis serve: spin rate and axis of rotation”(Sports Biomechanics 2013;12(1):23-29)
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/14763141.2012.671355
スタンスと床反力(参考)
- Biomechanical analyses of different serve and groundstroke techniques in tennis: A systematic scoping review(PLOS One / PMC)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10434869/
打点の高さ・軌道・空力
- 東京大学運動会庭球部「【新歓企画】フラットサーブ論争に終止符を打つ! フラットサーブを物理で検証」
http://ut-tennis.com/archives/5135 - Cross R, Lindsey C. “The Physics of Tennis: Tennis Ball Trajectories — The Role of Aerodynamic Drag and Lift in Tennis Shots”(Tennis Warehouse University)
https://twu.tennis-warehouse.com/learning_center/aerodynamics2.php - Cross R, Lindsey C. “Measurements of drag and lift on tennis balls in flight”(Sports Engineering 2014 / Springer)
https://link.springer.com/article/10.1007/s12283-013-0144-9