MENU

テニスで速いボールが打てる人と打てない人の差は、結局なんなのか?【パワー理論】

テニスで速いボールが打てる人と打てない人の差は、結局なんなのか?

テニスのボールを速く打つにはどうすればいいのか——そんな素朴な疑問から調べ始めたら、物理の世界に迷い込んでしまいました。

専門家でも研究者でもない、ただのテニス好きが「なぜラケットを振るとボールが速くなるのか」を文献を読みながら自分なりにまとめたものです。スイングスピードや打球速度を決める要因、ラケットのスイングウェイト、ガットやテンションの影響など、調べてみると意外な事実がたくさんありました。

情報の正確性は何度も確認していますが、間違いがあればぜひ教えてください。気軽に読んでもらえると嬉しいです!

22 テニスで速いボールが打てる人と打てない人の差は、結局なんなのか?【パワー理論】
33 テニスで速いボールが打てる人と打てない人の差は、結局なんなのか?【パワー理論】

この記事はテニス歴数年以上の中級者を対象に書いています。スイングウェイトやインパクトといった基本的な用語はご存知の前提で進めます。

テニスのボールを速く打つには、何が一番大事なのか。

「ラケットを変えれば速くなる」「テンションを下げれば飛ぶ」——よく聞くこれらの話は、物理的には正確ではないことがわかっています。

この記事では、Rod Cross教授(シドニー大学)の論文群(TWU)、川副研究室の研究(日本テニス学会)、Sonyスマートテニスセンサーの実測データをもとに、ボールの初速を決める要素を定量的にまとめました。一般のテニスプレーヤーとして各文献を調べた内容ですので、議論のたたき台としてご活用ください。

※ 記事内の試算値(74%・57%等)は当サイトによる推定値であり、絶対的な数値ではありません。

目次

この記事でわかること

【ボールを速くする要素の内訳(当サイト試算・中級者→上級者の改善効果を100%とした場合)】

要素 サーブ ストローク
体の使い方(キネティックチェーン) 74% 57%
スイートスポット精度 26% 33%
鉛テープでSW最適化 0% 10%
ラケット買い替え・ガット・テンション 技術差に比べ極めて小さい 技術差に比べ極めて小さい

「なぜこうなるのか」を、物理とデータで説明します。

なぜ同じように振っているのに、ボールの速さがこれほど違うのか

テニスをしていると、こんな場面に出くわすことがあります。

相手のスイングは自分と大差ないように見えるのに、打ち返してくるボールがやけに速い。ラリーをしていると少しずつ押し込まれていく。あるいはテレビでプロの試合を見ていて、「あのスイングのどこからあんなパワーが出るのか」と不思議に思ったことがある。

実際のデータで確認してみましょう。スタテニ×ウィンザーラケットのコラボ企画で、Trackman(精密弾道計測システム)を使って元プロと一般プレーヤーのフォアハンドを比較した動画があります。

選手 フォア平均ボールの初速
元プロ(小野田選手・40代) 162.3 km/h
一般プレーヤー 111.4 km/h
約1.5倍

参照:スタテニ×ウィンザーラケット「プロとアマの違いをデータで分析!やっぱり小野田プロは凄かった件」 https://youtu.be/O2Jaoa_jnTI?si=nq9XPgWxp__nxmiW

これだけ差があります。答えはシンプルです。

体の使い方(スイング速度)が差の74%(サーブの場合。ストロークでは57%)を決めます。残りがスイートスポットに当てる精度です。ラケットやガット・テンションは技術差に比べると極めて小さいです。この記事では、その理由を式とデータで説明します。

※上記の割合は中級者→上級者への改善効果を100%とした当サイトの試算による推定値です。

あなたはなぜ速いボールが打てないのか?

今回集めたデータから推定すると、レベルごとの目安はこの程度です。

レベル フォアのボール速度(目安)
初中級者(週1〜2回・数年) 70〜100 km/h
中級者 100〜120 km/h
上級者(部活経験・週3以上) 120〜140 km/h
ATPプロ 130〜165 km/h超

※公式統計ではなく、今回のデータ(Sonyセンサー・Trackman)からの推定値です。

この差は何から来ているのでしょうか。少し考えてみてください。

□ スイングが速いから?
□ 筋力があるから?
□ 体が大きいから?
□ プロストックの特注ラケットを使っているから?
□ 使っているストリングやテンションが違うから?
□ 体重移動の使い方が違うから?
□ ラケットが重いから?

おそらく、あなたはこのうちのいくつかを思い浮かべたはずです。

実はこれらのほとんどが「間違ってはいないが、重要度の順番が大きくずれている」のです。

この記事では、テニスの物理学を専門に研究しているシドニー大学のRod Cross教授の論文群(Tennis Warehouse University、以下TWU)、日本テニス学会の川副嘉彦氏の研究、ソニーのスマートテニスセンサーの実測データ、Trackmanによるプロと一般プレーヤーの比較データ、そしてATPプロ選手のスペックデータをもとに検証します。

【まず結論】ボールのパワーはこの式でかなり整理できる

難しい話に入る前に、全体を貫く考え方をお伝えします。

ステップ①:ボールは「勢い」で飛ぶ

物理の基本に「運動量」という概念があります。

運動量 = 質量(m) × 速度(v)

ボールが速く飛ぶとは、ボールの運動量が大きいことです。テニスとは「ラケットの勢いをボールに伝える競技」と言い換えられます。

ステップ②:でも「質量」は単純じゃない

「ならラケットを重くすればいい」と思うかもしれません。しかし現実はそう簡単ではありません。

ラケットの全質量がボールに伝わるわけではないからです。インパクトの瞬間(約5ミリ秒)に実際にボールに作用するのは「有効質量(Me)」と呼ばれる一部の質量だけです。

そしてこの有効質量がどれだけ効率よくボールに伝わるかを決めるのが「eA(当たりの良さ)」です。

eAを決める要素は2つあり、どちらも独立して効きます

要素 何が決めるか 改善方法
スイングウェイト(SW) ラケットの仕様・バランス 鉛テープ・ラケット選択
インパクト位置 プレーヤーの技術・精度 練習

この2つは独立した要素です。SWが高くてもオフセンターで当てればeAは落ちます。逆に精度が高くてもSWが低ければeAの上限が下がります。両方が揃ってはじめて高いeAが実現できます。

ステップ③:だから、この1本の式で整理できる

【数式】(v=ボールの初速、V=ヘッドスピード、eA=当たりの良さ、vin=飛んでくるボールの速さ)

v = (1 + eA) × V + eA × vin

サーブ(vin = 0):
v = (1 + eA) × V

【日本語】

ボールの初速 = (1 + 当たりの良さ) × ヘッドスピード
            + 当たりの良さ × 飛んでくるボールの速さ

サーブ:
ボールの初速 = (1 + 当たりの良さ) × ヘッドスピード

要するに、ボールの初速は「スイング速度」「当たりの良さ(eA)」「相手ボールの速さ」の3つで決まります。コーチがよく言う「速く振れ」「真ん中に当てろ」「来たボールを使え」は、物理的にはこの3要素に対応していると考えられます。ラケット・テンション・ガットはこれらに間接的に影響するものとして考えると整理しやすくなります。

【「(1 + eA)」はなぜそうなるのか?気になる方はこちら】

直感的に理解するにはこう考えてください。

“` もしストリングが完全に死んでいて 「まったく跳ね返さない(eA = 0)」場合: → ボールの初速 = 1 × V(ラケットが押した分だけ)

ストリングが生きていて「eA = 0.4で跳ね返す」場合: → ボールの初速 = V + 0.4V = (1 + 0.4) × V = 1.4V “`

「1」はラケットが押した分、「eA」はストリングが跳ね返した追加分。

「1」は最初から存在する定数ではなく、運動量保存の法則と反発係数の定義という2本の物理の式を解くと自然に出てくる数字です。

【%で理解したい方へ】 eA = 0.4とは「ラケットが押した速度に、さらに40%が上乗せされる」という意味です。 「40%で打ち返す(=0.4×V)」ではなく「40%分を追加でもらえる(=1.4×V)」です。

eAの値 意味 ボールの初速
0 上乗せゼロ(死にストリング) 1.0 × V
0.4 40%上乗せ(スイートスポット) 1.4 × V
0.5 50%上乗せ(理想的な当たり) 1.5 × V

さらに詳しく見たい方へ: “` 【運動量保存】Me × V = Me × V’ + m × v 【反発係数】 eA = (v − V’) / V

この2本を連立して解くと: v = Me × (1 + eA) × V / (Me + m)

有効質量Meが十分大きい場合: v ≈ (1 + eA) × V “`

ステップ④:初速を上げる方法はこれだけ

手段 効果
キネティックチェーン改善 最大(V↑)
スイートスポット精度向上 最大と同等(eA↑)
SW最適化(鉛テープ等) 中程度(eA↑)
ラケット重量変更 小さい
テンション変更 技術差に比べ極めて小さい

速いボールを打つことを突き詰めると、主に2つに整理できます。ヘッドスピードを上げること、そしてスイートスポットに当てることです。

スイング速度が主役——データで確認する

スイング速度(体の使い方)が差の74%を決めるとお伝えしました。実際のデータで確認します。ソニーのスマートテニスセンサーのデータから「初速÷スイング速度の比率」に注目してみます。

フォアハンドの比較

選手・レベル スイング速度 ボールの初速 比率(初速÷スイング)
初中級者 平均 103 km/h 98 km/h 0.95
高校生(男) 114 km/h 120 km/h 1.05
大学3年 平均 109 km/h 124 km/h 1.14
大学生 最大 115 km/h 133 km/h 1.16
瀬間友里加プロ(女性) 114 km/h 117 km/h 1.03
西岡良仁プロ 141 km/h 131 km/h 0.93

※西岡選手は平均スピン+7.3の重トップスピン特化のため比率低下は正常。スイング速度141 km/hという絶対値が重要。

ご覧の通り、スイング速度が速い選手ほどボールの初速が高い傾向があります(西岡選手はスピン特化のため例外)。スイング速度を高めること——これがパワーの主役です。

バックハンドの比較

選手・レベル ストローク スイング速度 ボールの初速 比率
西岡良仁プロ 両手バック 110 km/h 119 km/h 1.08
ワウリンカ① 片手バック 113 km/h 135 km/h 1.19
ワウリンカ② 片手バック 104 km/h 128 km/h 1.23

参照:Sonyスマートテニスセンサー公式「プロのショットを解明!」 https://youtu.be/SayRqHyGg5U?si=ec7p8KbbBBNoov4w

ここで注目のデータがあります。ワウリンカと西岡プロのスイング速度はほぼ同じですが、ボールの初速は約15〜20 km/h違います。主な要因はSWの差と考えられます。ワウリンカSW=360・西岡SW=320——SWが高いほどeA(当たりの良さ)が上がり、同じスイング速度でも速いボールになります。詳しくは後の「eAの実例」セクションで確認します。

比率(初速÷スイング速度)——スイートスポット精度とスピン量が数値に表れる

サーブはボールが静止しているため最も純粋に比較できます。スイング速度に対してボールの初速がどれだけ上回るか——この「比率」に注目します。

選手・レベル スイング速度 ボールの初速 比率
小学生① 125 km/h 122 km/h 0.98
小学生② 121 km/h 117 km/h 0.97
高校生① 124 km/h 153 km/h 1.23
高校生② 132 km/h 162 km/h 1.23
瀬間友里加プロ(女性) 135 km/h 149 km/h 1.10
ATPプロ 推定※² 約155 km/h 185〜210 km/h 約1.30

※ スイング速度の根拠:PMC論文「Are there kinematic parameters correlated with racket velocity during the tennis serve?」でプロのフラットサーブのラケットヘッドスピード実測値43.2±3.1 m/s(=約155 km/h)が報告されています。 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11496077/

参照:Sonyスマートテニスセンサー公式チャンネル https://www.youtube.com/@SmartTennisSensorVideo/featured

この比率から見えてくることがあります。

✅ 小学生のサーブ:比率≈1.0
   → 当たりの効率が低い可能性が高い

✅ 高校生のサーブ:比率1.23に急上昇
   → スイートスポットが安定して当たるようになってきた

✅ プロのサーブ:比率1.3前後
   → スイング速度もあり、かつスイートスポット精度も高い

✅ スイング速度の差:小学生125 → プロ155 km/h(約1.2倍)
✅ ボールの初速の差:小学生120 → プロ200 km/h(約1.6倍)

スイング速度の差(1.2倍)より、ボールの初速の差(1.6倍)の方が大きい。

小学生(比率≈1.0)→ 高校生(1.23)→ ATPプロ(1.30)と、上達とともに比率が上がっています。スイング速度はほぼ同じでも比率が高い=eA(当たりの良さ)が高い。これがスイング速度だけでは説明できないパワーの源泉です。

謎を解き明かす——eA・SW・キネティックチェーン

eAはインパクト位置で大きく変わる

出典:Rod Cross「Racquet Power」TWU https://twu.tennis-warehouse.com/learning_center/racquetpower.php

川副研究室 https://kawazoe-lab.com/tennis_racket/science-of-tennis-racket-574/

インパクト位置 eAの値 ボールの初速への影響
ストリング面中央(スイートスポット) 0.40〜0.50 フルパワーで伝わる
先端側10cm付近 約0.20 eA低下によりボール速度が約14%低下 ※
フレーム近く 0.10〜0.20 ほぼロス

※ 計算例:eA=0.40のとき v=1.40V、eA=0.20のとき v=1.20V。差は約14%。

出典:TWU「Racquet Control Part 1」 https://twu.tennis-warehouse.com/learning_center/controlpart1.php

【数字で確認したい方へ】eAの計算式

eAは「見かけの反発係数(Apparent Coefficient of Restitution)」とも呼ばれます。ストリング単体の反発係数ではなく、ラケットとボールの衝突全体をまとめた指標です。eA=0.4とは「ストリングだけが40%押し返す」という意味ではなく、「ラケット速度Vに対して結果としてボール初速が約1.4Vになる」という意味です。

eAは次の式で計算されます。

eA = (e × Me − m) / (Me + m)

出典:TWU「Racquet Power」Appendix(Equation 13) https://twu.tennis-warehouse.com/learning_center/racquetpower.php

変数 意味
e 反発係数(COR):ストリング面でのボールの跳ね返り特性 約0.8(中央付近)〜約0.5(先端・喉元付近)
Me 有効質量(SW ÷ R²):インパクト瞬間にボールに作用する質量 SWとインパクト位置で決まる
m ボールの質量 56〜59g(ITF規定)

R = スイングウェイト軸(グリップ端から10cm)からインパクト点までの距離

※ eAの実測値はTWUが1000本以上のラケットについてデータを公開しています。 https://twu.tennis-warehouse.com/learning_center/racquetanalyzerTWU.php

レベル別スイング速度の実測値

※ SWを鉛テープで320→360に増やすとスイング速度は約2.8%低下(Cross & Bower 2006)。

レベル フォア サーブ
初中級者 103 km/h
高校生・部活(男性) 114 km/h 124〜132 km/h
大学生 109〜115 km/h
プロ女性(瀬間選手) 114 km/h 135 km/h
プロ男性(西岡選手) 141 km/h
ATPプロ 約155 km/h

出典:Sonyセンサー公式 / PMC https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11496077/

eAの実例:ワウリンカが同じスイング速度で15〜20 km/h速い理由

eAが実際にどう効くかを、具体的なデータで見ます。

選手 ストローク SW スイング速度 ボールの初速 比率
西岡良仁プロ 両手バック 320 110 km/h 119 km/h 1.08
ワウリンカ① 片手バック 360 113 km/h 135 km/h 1.19
ワウリンカ② 片手バック 360 104 km/h 128 km/h 1.23

注:ここでの比較はバックハンド同士の西岡とワウリンカに限定します。フォアハンドとバックハンドは直接比較できません。

なぜ同じスイング速度で初速が違うか:

要因 内容
①SWの差 ワウリンカSW360 vs 西岡SW320 → eAが高くなる方向(TWU式で確認)
②片手バックの優位性 開放連鎖(手首が自由)vs 閉鎖連鎖(手首が制約)(論文確認済み)
③センサーの限界 手首スナップ分が記録されにくい可能性(推定)

出典: – ワウリンカSW:https://www.tennisnerd.net/gear/racquets/pro-player-racquets/stan-wawrinkas-racquet/16763 – 西岡SW:https://www.tennisnerd.net/gear/racquets/pro-player-racquets/yoshihito-nishiokas-racquet-2/36593 – 片手・両手バックの比較研究:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3588639/

なお計測時、ワウリンカのスピン量は+6〜+7と西岡選手(+4.8)より多い数値でした。ドフラットで打てばさらに高い初速が出る可能性があります。

【コラム①】「初速が速いのに伸びがない」は物理的にどういう意味か

ワウリンカのバックハンドで「伸び」という話が出たところで、テニスでよく聞く表現を確認しておきます。

「あの人は球が速いけど伸びがない」という表現です。感覚的なコーチングワードとしては意味がありますが、「速いボールが途中で急に遅くなる」という物理的な意味ではありません。

ボールは飛行中に必ず空気抵抗で減速します。しかも速いボールほど空気抵抗は大きく、より速く減速します。ただし、初速が速いボールは相手コートに届く時点でも相対的に速い傾向があります。「途中で急に失速して遅いボールに追いつかれる」という意味での「伸びがない」は、物理的には成立しません。

では「伸び」とは何か?

本当の「伸び」の正体はスピン量と弾道の違いです。

ボールの種類 飛行中 バウンド後
フラット(低スピン) 直線的な軌道 低く速く滑る。相手は処理しやすい
トップスピン(高スピン) 弧を描いて沈む 高く跳ね上がり、加速する感覚がある

本当の意味で「伸びるボール」とは、初速が速く、かつスピン量も多いことで相手の予測を超える弾道になるボールです。ワウリンカのバックハンドがその典型で、初速128〜135 km/hに加えてスピン+6〜+7という数値が計測されています。

「伸びがない」は技術論として意味がある表現ですが、「速いボールが途中で遅くなる」という意味では、物理的には成立しにくいとされています。

「速いボールを打ち返す方が、速い球が返せる」

式をもう一度見てください:

ボールの初速 = (1 + eA) × ヘッドスピード
            + eA × 飛んでくるボールの速さ

eA × 飛んでくるボールの速さ の項が示すのは、飛んでくるボールが速いほど、自分のボールの初速も速くなるということです。

eA=0.40の場合(スイートスポットで当てられるプロレベル):

飛んでくるボールの速さ ボールの初速への上乗せ
60 km/h +24 km/h
100 km/h +40 km/h
140 km/h +56 km/h
180 km/h +72 km/h

「速いボールは打ち返しにくい」というのはタイミングの話であって、物理的にはむしろ逆です。速いボールが来るほど速い球が返せる構造になっています。

ところが一般プレーヤーにはこの恩恵がほとんどありません。理由はオフセンターヒットが多くeAが低いため、飛んでくるボールの速さをボールの初速に変換できないからです。

レベル 実効eA 100km/h来球時の上乗せ
初中級者 0〜0.05 +0〜5 km/h
大学生レベル 0.14〜0.16 +14〜16 km/h
プロ 0.30〜0.40 +30〜40 km/h

プロとアマのボールの初速差は「スイング速度の差」と「eA差による飛んでくるボールの恩恵の差」が重なった結果です。

速いボールを打つための優先順位

結論:何にフォーカスすべきか

順位 何をすべきか 計算に使った変数 サーブ効果(試算) ストローク効果(試算)
1位 キネティックチェーン改善 V:120→132 km/h(+10%)※¹ +約17 km/h(74%) +約17 km/h(57%)
2位 スイートスポット精度 eA:0.35→0.40(+0.05)※² +約6 km/h(26%) +約10 km/h(33%)
3位 SW最適化(鉛テープ等) SW:320→360 → eA微増・V▲2.8%で相殺 ほぼ±0(0%) +約3 km/h(10%)
4位 ラケット重量変更 SWの変化に準ずる
5位 テンション変更 eA変化:ばらつきの範囲(出典:外山・桜井2004) ※極小 ※極小

※¹ Sonyセンサー実測:初中級者103 km/h → 高校生部活114 km/h(+10.7%)をもとに試算(V=120km/h想定) ※² スイートスポット精度が上がった場合のeA改善幅を+0.05と推定。ストロークはvin=80 km/h想定 ※ 上記はすべて当サイト試算値。式:v = (1 + eA) × V + eA × vin による計算

ラケット選びの指針

あなたの状況 推奨
スイングスピードが出ない SWを上げすぎない。まずキネティックチェーンを改善
ストロークをすぐ強化したい 鉛テープでSW増加(今すぐできる・サーブには効かない)
速いボールで面が崩れる SWを上げる(プロースルー・ツイストウェイト重視)
サーブが遅い スイングスピードとスイートスポット精度の両方を改善
オフセンターが多い ヘッドサイズ大きめ、ツイストウェイト高めのラケット

次の記事:テニスの「常識」を物理で全部検証する

ラケットを重くすれば速い球が打てる?テンションを下げれば飛ぶ?体重移動でボールが重くなる?

この記事で学んだ式とデータを使って、テニス界でよく言われる「常識」を1問1答形式でひとつひとつ検証します。データが出す答えは、予想外かもしれません。

→ 【次の記事】テニスの「常識」を物理でぶっ壊す——重いラケット・テンション・体重移動の真実

最後に:ラケットを変える前に考えてほしいこと

プロと中級者の差の大部分は「スイング速度(キネティックチェーン)」と「eA(スイートスポット精度×SW)」の差です。ラケット変更の効果は最大でも数 km/h。技術と体の改善は何十 km/h もの差を生みます。

「今の自分に必要なのはラケットの変更か、それともスイングとeAの改善か」——一度考えてみる価値はあるかもしれません。

物理的には後者の方が効果が大きいと考えられます。

「なぜラケットやテンションの効果が極めて小さいのか」の詳細な検証は次の記事で行っています。

免責・更新について

本記事に記載しているデータ・数値・計算値は、執筆時点における各種研究・実測データをもとに作成しています。物理の式やデータには変数や見落としが含まれる場合があります。誤りや新しい情報が見つかった場合は順次修正・アップデートを行っていきます。また、記事内の試算値(74%・57%など)は当サイトによる推定値であり、絶対的な数値ではありません。お気づきの点がございましたらお知らせいただけると幸いです。

参照・引用一覧

物理の式・理論

① TWU「Racquet Power」(Rod Cross, University of Sydney) https://twu.tennis-warehouse.com/learning_center/racquetpower.php

② Cross & Bower (2006)「Effects of swing-weight on swing speed and racket power」 https://www.physics.usyd.edu.au/~cross/PUBLICATIONS/SwingSpeedvsSW.pdf

③ TWU「Racquet Control Part 1」(eA≈0.4の根拠) https://twu.tennis-warehouse.com/learning_center/controlpart1.php

④ TWU「Racquet Weighting」 https://twu.tennis-warehouse.com/learning_center/racquetweighting.php

⑤ TWU「Effective Racquet Mass」(Me = SW/R²) https://twu.tennis-warehouse.com/learning_center/effectivemass.php

⑥ TWU「Energy Flow Between a Tennis Ball and Stringbed」(テンション影響) https://twu.tennis-warehouse.com/learning_center/stringbeds.php

⑦ TWU「Racquet Plow-through, Stability, and Momentum」(プロースルー) https://twu.tennis-warehouse.com/cgi-bin/plowthrough.cgi

⑧ TWU「Racquet Analyzer Tool」(ストリングパターンとeA) https://twu.tennis-warehouse.com/learning_center/racquetanalyzerTWU.php

⑨ Rod Cross「Ball Trajectories」(空気抵抗・球速75%ルール) https://www.physics.usyd.edu.au/~cross/TRAJECTORIES/42.%20Ball%20Trajectories.pdf

⑩ Rod Cross (2010)「Impact forces and torques transmitted to the hand by tennis racquets」(体の等価質量約200g) https://www.researchgate.net/publication/233460857_Impact_forces_and_torques_transmitted_to_the_hand_by_tennis_racquets

川副研究室(日本語・査読付き研究)

⑪ 川副研究室「テニスラケットの科学(7)ストリング・テンションと反発力係数」 https://kawazoe-lab.com/tennis_racket/science-of-tennis-racket-7/

⑫ 川副研究室「テニスラケットの科学(574)打球速度とスピンを生むインパクトの構成要素」 https://kawazoe-lab.com/tennis_racket/science-of-tennis-racket-574/

⑬ 川副研究室「テニスラケットの科学(480)反発力特性」 https://kawazoe-lab.com/tennis_racket/science-of-tennis-racket-480/

⑭ 川副研究室「テニスラケットの科学(45)高校物理 運動量 テニスラケットの力学」 https://kawazoe-lab.com/tennis_racket/science-of-tennis-racket-45/

実測データ

⑮ Sonyスマートテニスセンサー公式YouTubeチャンネル https://www.youtube.com/@SmartTennisSensorVideo/featured

⑯ Sonyスマートテニスセンサー公式「プロのショットを解明!西岡良仁・ワウリンカ等」 https://youtu.be/SayRqHyGg5U?si=ec7p8KbbBBNoov4w

⑰ スタテニ×ウィンザーラケット「プロとアマの違いをデータで分析!やっぱり小野田プロは凄かった件」(Trackman使用) https://youtu.be/O2Jaoa_jnTI?si=nq9XPgWxp__nxmiW

ラケットスペック

⑱ Tennisnerd「Stan Wawrinka’s Racquet」(SW=360) https://www.tennisnerd.net/gear/racquets/pro-player-racquets/stan-wawrinkas-racquet/16763

⑲ Tennisnerd「Yoshihito Nishioka’s Racquet」(SW=320) https://www.tennisnerd.net/gear/racquets/pro-player-racquets/yoshihito-nishiokas-racquet-2/36593

バイオメカニクス・スポーツ科学

⑳ PMC「Are there kinematic parameters correlated with racket velocity during the serve?」(プロサーブ43.2 m/s) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11496077/

㉑ DPT Capstone「Kinetic Chain Concepts for Tennis Players」(キネティックチェーン・54%) https://dptcapstone.web.unc.edu/2014/04/22/kinetic-chain-concepts-and-exercise-progression-for-tennis-players/

㉒ PMC「Biomechanics of the Kinetic Chain in Tennis」 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3445225

㉓ PMC「Kinematics of One-Handed and Two-Handed Backhand」(片手5節・両手3節) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3588639/

㉔ PMC「Biomechanics and Tennis」(片手バック手首スナップ) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2577481/

㉕ ITF「Rules of Tennis」(ボール質量56〜59.4g) https://www.itftennis.com/en/about-us/governance/rules-and-regulations/

㉖ 非常識テニス「テニスのスイングスピードは、プロも一般人もほぼ変わらないわけ」(検証対象) https://tennis.j-treasure.com/pro-swingspeed/

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

テニス歴3年・スクール中級者。

※本記事は一般プレーヤーが公開文献をもとに独自にまとめたものです。
専門的なご指摘はコメント・お問い合わせからお待ちしております。

目次